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大阪地方裁判所 昭和29年(ワ)3072号 判決

原告 丸岡由彦

被告 富士精工株式会社

主文

被告は、原告に対し金二十万円及びこれに対する昭和二十九年四月十六日より完済にいたるまで年六分の割合による金員を支払わねばならない。

訴訟費用は被告の負担とする。

本判決は、原告において金七万円の担保を供するときは仮にこれを執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、被告は、昭和二十九年二月一日金額二十万円支払期日同年四月十六日振出地並に支払地大阪市支払場所三和銀行寺田町支店受取人椿井商店なる約束手形一通を振出し、右受取人たる椿井健蔵はこれを訴外平井正雄に、訴外平井正雄は原告にそれぞれ白地裏書により譲渡し、原告は、その所持人となつたから、支払期日に支払場所において手形を呈示して支払を求めたが拒絶された。よつてここに被告に対し右手形金二十万円及びこれに対する支払期日より右完済にいたるまで年六分の割合による利息の支払を求めるため本訴に及ぶと述べた。〈立証省略〉

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告主張の約束手形の振出、裏書の事実、ならびに支払拒絶の事実は認めるが、右手形の受取人と第一裏書人である訴外椿井健蔵とは同一人と認められないから、裏書の連続を欠くのみでなく、被告は昭和二十九年二月訴外椿井健蔵に対し本件手形の割引方斡旋を依頼し同訴外人は、さらに訴外人平井武雄に同様依頼した結果原告は、右訴外人を介し被告に対し、右手形の割引をなすことを承諾したにかゝわらず毫も割引金を交付しないから被告は本件手形の支払義務がない。仮にそうでないとしても、原告は訴外平井武雄にたいし、債権をもつていたので、その回収のため、本件手形が被告より割引を委託されたものであることを知りながら、訴外平井武雄にたいする債権と相殺し、しかも訴外平井武雄にたいしては、裏書人としての権利を保留しているから、被告にたいする本件手形にもとずく請求は権利の濫用である。と述べた。〈立証省略〉

理由

被告が、昭和二十九年二月一日金額二十万円支払期日同年四月十六日振出地ならびに支払地大阪市支払場所三和銀行寺田町支店受取人椿井商店と定めた約束手形一通を振出し、訴外椿井健蔵がこれを訴外平井正雄に、同訴外人はこれを原告に、順次白地裏書により譲渡したこと及び原告は、支払期日に手形を呈示して支払を求めたが拒絶されたことは当事者間に争がない。

被告は右手形の受取人椿井商店と、第一裏書人椿井健蔵とは同一人とみとめられないから裏書の連続を欠くと抗争するけれども成立に争のない甲第一号証によると、本件手形の第一裏書人の表示には、その肩書に椿屋商店とあり、椿井商店と別な表示ではあるが、「椿井商店」と「椿屋商店椿井健蔵」と対比すると、椿井商店とは、椿井健蔵の商店ということを意味するものと、表示自体によつて、理解できるし、証人平井武雄(第二回)の証言によつても、同人が本件手形を受取つたときにも、その受取人と第一裏書人が別異なものであるという印象を受けなかつたことが認められる点に徴するも、取引上本件手形の受取人と第一裏書人の表示には連続あるものというのが相当であると認める。他に右認定を覆すに足る証拠はない。

つぎに、被告は、昭和二十九年二月訴外椿井健蔵に対し、本件手形の割引斡旋を依頼し、同訴外人はさらに訴外平井武雄に対し、同様依頼したところ、原告は右訴外人を介し、被告に対し右手形の割引を承諾したにかゝわらず毫も割引金を交付しないと抗弁するけれども被告の全立証によるも原被告間に右のような割引の契約が出来たことは、これを認めるに足る証拠がなく、却つて、成立に争のない甲第一号証、証人平井武雄(第一、二回)ならびに証人椿井健蔵の証言、及び原告本人の供述を綜合すると、原告は、本件手形を振出して、訴外人椿井健蔵にその割引方を依頼し同人はさらに訴外平井武雄に同様依頼したが、手形は原告より訴外椿井に、椿井はこれを訴外平井正雄にそれぞれ白地裏書により譲渡し訴外平井武雄はその引渡を受けて所持人となつた上原告に対し右手形の割引を依頼し、割引金の内自己の原告に対する債務約七万円の支払にあてることは原告の承諾ある旨述たので原告はこれを信用し、差引金九万八千余円を同訴外人に交付したことを認めることができる。他に右認定を覆すに足る証拠はない。したがつて本抗弁もまた採用することができない。

なお、原告は、訴外平井武雄にたいし、債権をもつていたので、その回収のため、本件手形が被告より割引を委託されたものであることを知り乍ら、訴外平井武雄にたいする債権と相殺し、しかも訴外平井武雄にたいしては裏書人としても権利を保留しているから、被告にたいする本件手形にもとずく請求は、権利の濫用であるというけれども、原告は訴外平井武雄の依頼により本件手形を割引いたときの事情は前認定のごとくであつて、同人が本件手形につき裏書責任を負うとしても、被告に対する本訴請求を権利の濫用とすべき理由は毫も存しない。そうすると、被告は原告に対し本件手形金二十万円及びこれに対する支払期日たる昭和二十九年四月十六日より右完済にいたるまで年六分の割合による利息の支払をなすべき義務あること明である。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条仮執行宣言につき同法百九十六条第一項を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 沢栄三)

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